大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和34年(行)140号 判決 1960年5月26日

原告 柳沢栄蔵

被告 関東信越国税局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、双方の申立

(一)  原告

「被告が昭和三三年九月二九日付でなした原告の昭和二七年度分所得税に関する審査決定のうち重加算税に関する部分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

(二)  被告

主文と同旨の判決を求める。

第二、原告の主張

一、原告の昭和二七年度分所得税の確定申告に対し、所轄相川税務署長は昭和三一年一二月二四日付で原告の総所得金額を二、一五七、五五一円、この算出税額を八七五、〇八〇円と更正し、重加算税額四三七、五〇〇円を課したので、原告は同税務署長に対し再調査の請求をしたところ、被告は昭和三三年九月二九日付で右各決定の一部を取消し、総所得金額を一、一一三、〇一三円、算出税額を三六二、五五〇円、重加算税額を一四一、〇〇〇円とする旨の審査決定をし、同年一〇月四日原告は該決定書を受領した。

二、被告のなした審査決定のうち、重加算税額一四一、〇〇〇円の決定は、相川税務署長の不当な更正決定と被告の審査延引による納税遅延に基くもので、納税遅延は原告の過怠によるものではないから、右重加算税の決定は違法である。よつて、その取消を求める。

第三、被告の主張

一、原告の主張第一項の事実は認める。たゞし、相川税務署長が原告主張の各決定をしたのは、昭和三一年一二月二四日付ではなく昭和三〇年一二月二四日付であり、算出税額は、原告主張の算出税額に配当所得に関する源泉所得税額を加えたものが正当額である。また、原告が相川税務署長に再調査の請求をしたのは昭和三一年一月二五日であり、右再調査請求は、所得税法第四九条第四項第二号の規定に基いて審査請求とみなされたものである。原告の主張第二項は争う。

二、被告の本件審査決定は、重加算税額につき一四一、〇〇〇円の限度で原処分を維持したものであるが、右金額の限度においては、次のとおり、重加算税賦課の要件(昭和二九年法第五二号による改正前の所得税法第五七条の二所定)を充すものであるから、なんら違法でない。

(一)  原告は、営業所を納税地である両津市の外、新潟市にも有し、藁工品の販売、海産物の加工販売及び竹製品、瓦の製造販売等多角経営を行つているが、昭和二七年度分所得税に関し、昭和二八年三月一六日次のような内容の確定申告をした。

事業所得金額

収入金額(A)   二〇、〇九九、一一二円

必要経費(B)   二〇、七一八、六一四円

所得金額(A―B) ▲  六一九、五〇二円

総所得金額     ▲  六一九、五〇二円

所得税額               〇円

(二)  原告が所得税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装し隠ぺい、仮装したところに基いて申告した事実。

(1) 原告は、被告の部下職員等が昭和三〇年一〇月原告の新潟営業所に臨場調査した際、帳簿書類の提出を求めたところ、一部の帳簿(売上元帳、仕入元帳)を提出したのみで、伝票、仕切票のようないわゆる原始記録については、大部分紛失した等と述べて提出しなかつた。しかも原告が提出した売上元帳は、実際は売上を脱漏して記帳し、確定申告の基礎としたいわゆる表帳簿であつたが、原告はこれについて、正確に記帳したものである旨申立てた。しかし、被告の部下職員等は、記帳額が事業の規模等からみて余りにも少額であるため、他にも帳簿書類があるものと考え原告を追求したところ、原始記録の一部が物置にあるかもしれないと申立てるにいたつた。そこで物置を調査したところ、原始記録の外、おおむね正確に記帳した売上元帳(いわゆる裏帳簿)を発見した。すなわち、原告は、いわゆる二重帳簿を作製して故意に売上高を隠ぺいしていたわけである。しかして、新潟営業所関係の売上に関する右裏帳簿の記帳額集計は二五、三二〇、四四〇円、両津営業所における売上日記帳の集計額は五、四七四、六一〇円で、両者の合計は、三〇、七九五、〇五〇円となるが一方原告の申告にかかる売上額(収入額)は二〇、〇九九、一一二円であるから、結局原告が表帳簿によつて仮装、隠ぺいした売上高は、少くとも一〇、六九五、九三八円を超えることになる。

(2) 原告は、銀行預金の一部について、後藤久栄、柳沢マス、鷲尾ユキ等の他人名義或いは架空名義を使用して、税務職員が取引銀行の調査を行つても預金の金額が判明しないように仮装し、取引状況及び預金額を隠ぺいした。しかして、原告が他人または架空の名義による預金をもつことによつて、右の点を隠ぺいする意図のあつたことは、これらの預金口座に入金された売上金のうち、原告の表帳簿に記帳されていなかつたものがあることによつて明らかである。

(3) 原告は、自分の有する北陸ガス株式会社、新潟交通株式会社等の株式について、大橋慎一、中村勝弥、中村久雄等の他人名義を使用し、配当所得二八七、二八〇円を隠ぺいした。そして、原告に隠ぺいの意図があつたことは、原告が配当所得について全然申告しなかつたことに徴し明らかである。

(三)  重加算税算出の基礎となる追徴税額

原告に対する相川税務署長の更正処分は、後に被告の審査決定により一部取消され、その結果原告に対する所得税額は、二八二、六七〇円となつたが、他方原告の申告にかかる所得税額は零であるから、結局追徴税額は、二八二、六七〇円である。

しかして、原告は、右更正処分及びその処分に対する審査決定に対し、本件重加算税決定の部分を除いては、法定の出訴期間内に抗告訴訟を提起していないから、右追徴税額は既に適正額として確定している。

(四)  重加算税額の計算

右(三)のとおり、審査決定による追徴税額は、二八二、六七〇円であるが、これは原告が前記(二)において述べたとおり、所得税を免かれようとして所得税額の計算の基礎となるべき事実を仮装、隠ぺいしたことによるのであるから、重加算税額は、一四一、〇〇〇円まで徴収することが可能である。

第四、証拠<省略>

理由

原告が昭和二七年分所得税に関し昭和二八年三月一五日付一六日受附で相川税務署長に対し、事業所得金額マイナス六一九、五〇二円、総所得金額マイナス六一九、五〇二円、所得税額〇円という内容の確定申告書を提出したこと、同税務署長が昭和三〇年一二月二四日付で営業所得金額は二、一二四、八一円、配当所得金額三三、三七〇円、総所得金額二、一五七、五五一円、算出税額八八一、七五〇円、差引年税額八七五、〇八〇円(右算出税額から源泉徴収所得税六、六六一円を税額控除したもの)と更正決定し、重加算税額四三七、五〇〇円を課し、原告にその旨通知したこと、これに対し原告が同税務署長に昭和三一年一月二五日再調査の請求をしたところ、右再調査請求は所得税法第四九条第四項第二号の規定により審査請求とみなされ、被告が昭和三三年九月二九日付で右更正決定及び重加算税決定の各一部を取消し、総所得金額を一、一一三、〇一三円、算出税額を三六二、五五〇円、差引年税額を二八二、六七〇円(右算出税額から源泉徴収税額七九、八七八円を税額控除したもの)、重加算税額を一回一、〇〇〇円とする旨の審査決定をしたことは成立につきいずれも争のない乙第一号証、甲第一号証、同第二号証及び弁論の全趣旨によりこれを認めることができ、原告が被告のなした右審査決定の通知書を昭和三三年一〇月四日受取つたことは当事者間に争がない。原告は、被告のなした審査決定のうち重加算税決定の部分が違法である旨主張するが、証人五味慶明、同内藤省吾の各証言、同各証言により成立を認める乙第二号証の一ないし三、証人三富豊一の証言、同証言により成立を認める乙第三号証、証人津川英雄の証言、同証言により成立を認める乙第四号証の一、二及び原告本人尋問の結果(ただし後記措信しない部分を除く)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は営業所を新潟県両津市の肩書住居のほか新潟市にも有し、藁工品、魚粕、海産物、竹等の製造加工販売等をしているが、昭和三〇年一〇月頃被告部下職員等が、昭和二七年分の所得に関し原告方の帳簿書類、銀行取引関係、所有株式等を調査したところによると、原告は確定申告の基礎とした売上、仕入の記帳する帳簿を備付していたほか、いわゆる裏帳簿を有し、(いわゆる二重帳簿の作成)右確定申告の基礎としたいわゆる表帳簿において相当多額の売上金額の脱漏を図りながら、税務係員に対してはこれが唯一の正確な帳簿であると主張していたこと、銀行預金の一部について、原告の妻柳沢マス、妻の妹後藤久栄等の他人名義を用いて売上金等を預金し、しかもこれら預金口座に入金された売上金のうちには、原告の表帳簿に記帳されていなかつたものがあること、自己の有する北陸ガス株式会社、新潟交通株式会社等の株式について、大橋慎一、中村勝弥、中村久雄等の他人名義を使用し、他人名義により計二八七、二七八円の配当金額を得たほか、右金額を含め昭和二七年中に合計三九九、四〇七円の配当金額を得たにかかわらず、右配当所得につき全く確定申告しなかつたこと、をそれぞれ認めることができる。原告本人尋問の結果中右の認定に反する部分は信用できない。

右認定の事実からすれば、原告は所得税額の計算の基確となるべき事実を隠ぺい、仮装し、隠ぺい、仮装したところに基いて確定申告したものと認めざるをえない。しかして、原告に対する所得税額は被告の審査決定により二八二、六七〇円とされたことは前認定のとおりであり、原告は右所得税額の決定に対し法定の出訴期間内に抗告訴訟を提起していないばかりでなく、右税額については本訴においても争わないところである。ところが原告の確定申告にかかる所得税額は零であるから、結局追徴税額は二八二、六七〇円となる。そしてこの追徴税額は、前記のとおり、原告が所得税を免がれようとして所得税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装したことによるものであるから、被告が右追徴税額につき所得税法(昭和二九年法第五二号による改正前の)第五七条の二の規定により百分の五十の割合を乗じて計算した金額に相当する金額内の一四一、〇〇〇円の重加算税額を原告に課したことはなんらの違法でないといわなければならない。

よつて原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 桜井敏雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例